キディル(KIDILL)の2022-23年秋冬コレクションが、東京文京区の鳩山会館にて発表された今季は、技巧や伝統、潮流にとらわれない、自由な表現を讃えるアールブリュット(生の芸術)の作家として知られる芸術家ヘンリーダーガーの作品『非現実の王国で』がインスピレーションとなっているデザイナーの末安は、ヘンリーダーガーが独自の信念のもと創作に励むその姿勢、アウトサイダーとしての生き方に敬意を表して、彼の作品を取り上げたという
ヘンリーダーガーの作品『非現実の王国で』を着想源に
『非現実の王国で』は、15,000ページを超える小説原稿と数百枚の挿絵によって、子供奴隷制の国家「グランデリニア」とカトリック国家の「アビエニア」の戦争を中心に、子供たちを救うべく立ち上がった7人の無垢な少女たち“ヴィヴィアンガールズ”の戦いが描かれた作品だ今季は、同作に登場するアイコニックな図像の数々が、ファブリックやグラフィックに落とし込まれているまた、作品を彷彿とさせるくすんだ紫やイエローがキーパレットとして抽出された
アウトサイダーな生き方に敬意を表して
ショーのはじまりは、無垢な子供たちを彷彿とさせるハッピーなルックが続いた淡いカラーをメインに、チュールとリボンに飾られたシャツや、淡い花柄のワンピースが登場し、花の咲き乱れる色鮮やかな自然の中で成長する子供たちを彷彿とさせる
ショーが進めば、そこにダークな一面を垣間見る自由な自己表現の在り方を肯定するアールブリュットの概念とやんわり通じ合い、キディルのフィルターを通した唯一無二のファンタジーが綴られるボンテージベルトが施されたチェック柄のジャケット、ヘムが切りっぱなしのタイダイ染めのデニム、タトゥー風のプリントといったパンクやグランジの要素が勢力を増したとき、キディルらしさが存分に表れ始めた
“子供たち”が描かれたニットカーディガンは、ジッパーのディテールが効いた、赤いチェックのセットアップ風ワンピースに合わせられているジッパーを開ければ花柄がのぞくパーカーは、パンキッシュなチェック柄のパンツとプリーツスカートの組み合わせでハードなスタイルへと導かれた
終盤になると、ヘンリーダーガーの世界が全面に描かれたルックが登場するリボンタイのシャツワンピースは、ボンテージベルトから流れるようにあしらわれたプリーツスカートがたなびき、オーバーサイズのニットはディテールに細やかな刺繍が施されることで、物語の世界を立体的にした最後のワンルックはショー最初への回帰を思わせると同時に、ヘンリーダーガーの世界、そしてキディルの世界を通して見えた、より自由な表現を謳歌する創作への希望となった